エンドカンナビノイド・システム(ECS)とは何か?

今回のブログ記事では、CBDに関わること全般の根幹にあるとも言える、エンドカンナビノイド・システム(ECS)について語ります。略語の意味を思い出したい方のために、記事の最後に簡単な一覧をつけておきます。

まず初めに、神経系がどのように信号を伝達するかを見てみましょう。脳が身体のさまざまな部位に信号を送ると(たとえば、膝を曲げたいときは、脳が方形筋に収縮を命じる信号を送ります)、信号は神経伝達物質の力を借り、神経細胞に沿って移動します。神経伝達物質というのは、細胞から細胞へ信号を伝えるために人間の身体が産生する小さな化学物質です。こちら側の岸から川の反対側の岸にメッセンジャーを運ぶ渡し船のようなものと考えることができます。運ばなければならないメッセンジャーが多ければ多いほど、必要な渡し船、つまり神経伝達物質も多くなります。そしてもちろん、渡し船はどこかに着岸しなければなりません。人体においては、渡し船が着くのは細胞受容体です。受容体はわかっているだけで数百種類あり、まだこれから研究されなければならないものがもっとたくさんあります(Dautzenberg & Hauger, 2002)。

神経系がどのように信号を伝達するかがだいたいわかりましたから、今度は具体的にECSについて見てみましょう。ECSは、2種類の受容体、そしてそれに関連した神経伝達物質から成り、中枢神経系にも末梢神経系にも存在します。この2つの受容体はCB1およびCB2と呼ばれ、関連する神経伝達物質、アナンダミド(AEA)と2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は、エンド(内因性)カンナビノイドと呼ばれ(体内で産生されるので「内因性」)、エンドカンナビノイド・システムという名前はここから来ています。

では信号は実際にはどのようにして伝達されるのでしょうか? ECSが発見されたのは1988年と比較的新しく、逆向きに働く信号伝達システムとしては初めてのものです(Moore, 2018年)。神経伝達物質は通常、上流にある神経細胞(ニューロン)が分泌し、下流にあるニューロンが受け取ります。ところがECSの場合、神経伝達物質はこれとは逆向きに、情報の流れに逆らって移動します。これを逆行性シグナル伝達といいます。これがなぜ重要かと言うと、ECSが人体に影響を及ぼす仕組みが非常に興味深いものであることがわかるからなのですが、これについて説明するためには残念ながらそれだけでブログ記事が一つ必要です。ですからここでは、ECSが人体にさまざまな影響を与えるのは、それが逆行性シグナル伝達システムであるからだ、ということだけわかっていただければ結構です。

さて、細胞間の信号伝達がどのように行われるのか、ECSが神経系のこの機能にどのように組み込まれているかをご理解いただけたことと思います。では、大麻草からの抽出物は、このジグソーパズルにどのようにはまるのでしょうか?

現在、大麻草に含まれる植物性カンナビノイドとしてわかっているものが少なくとも113種類あります。植物性カンナビノイドは、植物が産生するからそう呼ばれるわけです。この記事では、CBDとTHCという「主要な」植物性カンナビノイド2種類だけを見ていきます。この2つの化合物だけを取り上げるのは、ある非常に興味深い進化の仕組みによって、CBDとTHCはそれぞれ、2-AGとアナンダミドの模倣化合物(ミメティック)と考えられているからです。つまりこれらはそれぞれ薬理学的特性が同じで、CBDには2-AGと同じ作用が、THCにはアナンダミドと同じ作用があるのです(Zou & Kumar, 2018年)。論文の中には、この2つの植物性カンナビノイドの作用は、人体が作る内因性カンナビノイドに置き換わるというよりも、内因性カンナビノイドの産生を促進させることによるものであると説明しているものがあります。

物事を一層複雑にしているのは、植物性カンナビノイドが、エンドカンナビノイド・システム以外に対しても作用するというエビデンスが次々と集まっていることです。不安、気分、睡眠などに対するCBDの効果は、セロトニン神経系の5-HT受容体への作用によるものであると考えられています(Russo et al. 2005年, Yi P.L et al. 2008年)。CBDは、川を渡るために、ECSのための渡し船だけでなく、他にもさまざまな種類の渡し船に乗ることができるのだと思えばいいでしょう。CBDその他の植物性カンナビノイドがECS以外にどんな信号伝達システムに作用するかについては継続的な研究が行われています。

非常に複雑なトピックですね。これを読んで、信号伝達システムとは何か、ECSがどのように信号伝達システムの機能を果たすか、植物性カンナビノイドはECSにどんな作用があるか、そしてECS以外のシステムにどのように作用するかについてある程度ご理解いただけたことと思います。本当のところ、このトピックをさらに掘り下げて3ページでも4ページでも書くことができますが、研究者以外の人がそれを最後まで読んでくださるとは思えません。細胞間のシグナル伝達は生物学の中でも複雑な主題の一つですから、ここまでお読みくださったあなたは立派です。

【略語一覧】

ECS = Endocannabinoid System エンドカンナビノイド・システム

CNS = Central Nervous System 中枢神経系

PNS = Peripheral Nervous System 末梢神経系

AEA = Anandamide アナンダミド

2-AG = 2-arachidonoylglycerol 2-アラキドノイルグリセロール

CBD = Cannabidiol カンナビジオール

THC = Tetrahydrocannabnol  テトラヒドロカンナビノール

 

【参考文献】

Dautzenberg FM & Hauger RL (2002) – https://www.labroots.com/trending/cannabis-sciences/8519/endocannabinoids-performance-retrograde-signaling

Zou S & Kumar U (2018) – International Journal of Molecular Science; 19 (3): 833

Russo et al. (2005) – The Open Sleep Journal; 1: 58-68

今回のブログ記事では、CBDに関わること全般の根幹にあるとも言える、エンドカンナビノイド・システム(ECS)について語ります。略語の意味を思い出したい方のために、記事の最後に簡単な一覧をつけておきます。

まず初めに、神経系がどのように信号を伝達するかを見てみましょう。脳が身体のさまざまな部位に信号を送ると(たとえば、膝を曲げたいときは、脳が方形筋に収縮を命じる信号を送ります)、信号は神経伝達物質の力を借り、神経細胞に沿って移動します。神経伝達物質というのは、細胞から細胞へ信号を伝えるために人間の身体が産生する小さな化学物質です。こちら側の岸から川の反対側の岸にメッセンジャーを運ぶ渡し船のようなものと考えることができます。運ばなければならないメッセンジャーが多ければ多いほど、必要な渡し船、つまり神経伝達物質も多くなります。そしてもちろん、渡し船はどこかに着岸しなければなりません。人体においては、渡し船が着くのは細胞受容体です。受容体はわかっているだけで数百種類あり、まだこれから研究されなければならないものがもっとたくさんあります(Dautzenberg & Hauger, 2002)。

神経系がどのように信号を伝達するかがだいたいわかりましたから、今度は具体的にECSについて見てみましょう。ECSは、2種類の受容体、そしてそれに関連した神経伝達物質から成り、中枢神経系にも末梢神経系にも存在します。この2つの受容体はCB1およびCB2と呼ばれ、関連する神経伝達物質、アナンダミド(AEA)と2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は、エンド(内因性)カンナビノイドと呼ばれ(体内で産生されるので「内因性」)、エンドカンナビノイド・システムという名前はここから来ています。

では信号は実際にはどのようにして伝達されるのでしょうか? ECSが発見されたのは1988年と比較的新しく、逆向きに働く信号伝達システムとしては初めてのものです(Moore, 2018年)。神経伝達物質は通常、上流にある神経細胞(ニューロン)が分泌し、下流にあるニューロンが受け取ります。ところがECSの場合、神経伝達物質はこれとは逆向きに、情報の流れに逆らって移動します。これを逆行性シグナル伝達といいます。これがなぜ重要かと言うと、ECSが人体に影響を及ぼす仕組みが非常に興味深いものであることがわかるからなのですが、これについて説明するためには残念ながらそれだけでブログ記事が一つ必要です。ですからここでは、ECSが人体にさまざまな影響を与えるのは、それが逆行性シグナル伝達システムであるからだ、ということだけわかっていただければ結構です。

さて、細胞間の信号伝達がどのように行われるのか、ECSが神経系のこの機能にどのように組み込まれているかをご理解いただけたことと思います。では、大麻草からの抽出物は、このジグソーパズルにどのようにはまるのでしょうか?

現在、大麻草に含まれる植物性カンナビノイドとしてわかっているものが少なくとも113種類あります。植物性カンナビノイドは、植物が産生するからそう呼ばれるわけです。この記事では、CBDとTHCという「主要な」植物性カンナビノイド2種類だけを見ていきます。この2つの化合物だけを取り上げるのは、ある非常に興味深い進化の仕組みによって、CBDとTHCはそれぞれ、2-AGとアナンダミドの模倣化合物(ミメティック)と考えられているからです。つまりこれらはそれぞれ薬理学的特性が同じで、CBDには2-AGと同じ作用が、THCにはアナンダミドと同じ作用があるのです(Zou & Kumar, 2018年)。論文の中には、この2つの植物性カンナビノイドの作用は、人体が作る内因性カンナビノイドに置き換わるというよりも、内因性カンナビノイドの産生を促進させることによるものであると説明しているものがあります。

物事を一層複雑にしているのは、植物性カンナビノイドが、エンドカンナビノイド・システム以外に対しても作用するというエビデンスが次々と集まっていることです。不安、気分、睡眠などに対するCBDの効果は、セロトニン神経系の5-HT受容体への作用によるものであると考えられています(Russo et al. 2005年, Yi P.L et al. 2008年)。CBDは、川を渡るために、ECSのための渡し船だけでなく、他にもさまざまな種類の渡し船に乗ることができるのだと思えばいいでしょう。CBDその他の植物性カンナビノイドがECS以外にどんな信号伝達システムに作用するかについては継続的な研究が行われています。

非常に複雑なトピックですね。これを読んで、信号伝達システムとは何か、ECSがどのように信号伝達システムの機能を果たすか、植物性カンナビノイドはECSにどんな作用があるか、そしてECS以外のシステムにどのように作用するかについてある程度ご理解いただけたことと思います。本当のところ、このトピックをさらに掘り下げて3ページでも4ページでも書くことができますが、研究者以外の人がそれを最後まで読んでくださるとは思えません。細胞間のシグナル伝達は生物学の中でも複雑な主題の一つですから、ここまでお読みくださったあなたは立派です。

【略語一覧】

ECS = Endocannabinoid System エンドカンナビノイド・システム

CNS = Central Nervous System 中枢神経系

PNS = Peripheral Nervous System 末梢神経系

AEA = Anandamide アナンダミド

2-AG = 2-arachidonoylglycerol 2-アラキドノイルグリセロール

CBD = Cannabidiol カンナビジオール

THC = Tetrahydrocannabnol  テトラヒドロカンナビノール

 

【参考文献】

Dautzenberg FM & Hauger RL (2002) – https://www.labroots.com/trending/cannabis-sciences/8519/endocannabinoids-performance-retrograde-signaling

Zou S & Kumar U (2018) – International Journal of Molecular Science; 19 (3): 833

Russo et al. (2005) – The Open Sleep Journal; 1: 58-68

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Andrew@2x

Andrew Megahy

リード・サイエンス・オフィサー Linkedin